2738人が本棚に入れています
本棚に追加
こと峻介に関する限り、自分がどうにもヤキモチ焼きであることは、漣はもう、とうに自覚していた。
峻介の秘書や支持者といった者たちに、漣が直接会うことはあまりない。ただ、峻介の仕事の話を聞いていると、その言葉の端々から、彼らがとんでもない熱量をもって自分の恋人に接していることが否応なく伝わってくる。
これってもはや、「惚れてる」ってことなんじゃないか?
そう思わずにはいられないぐらい。
周りの者を惚れさせるということが政治家にとって必要な資質であることは、漣も理解していた。彼らの間に生まれる熱が、当然ながら恋愛とはまったく関係のないものであることも、理屈の上ではわかっていた。
なのにどうしたって胸がザワザワする自分に、漣は気づいてしまったのだ。
初めは、とうてい受け入れられる感情ではなかった。天宮漣の人生において、「妬く」なんて女々しいことは、絶対にありえない。ましてや仕事上の関係に妬くなんてばかばかしい。だいたい、あれほど大変な思いをして一緒にいられるようになった自分たちなのに、こんなしょうもないことでもやもやして、どうすんだ……。
自分がどうにも小さく嫌な人間になったような気がして、彼は焦った。
しかし、何度振り払っても、もやもやは消えてくれない。それどころか、そのとびきりの笑顔と人間的魅力で会う人すべてを惹きつける(漣にはそう見えた)恋人の姿を目の当たりにするたび、黒い感情は広がってゆくばかりで……。
そんな気持を、思わず口にしてしまったこともある。あの時、予想外に峻介に喜ばれてしまったのは、今思い出しても少しばかり癪なことであったが。
しかし、さんざんじたばたした挙句、漣はもう、開き直ることにしたのだった。
どうしたって妬いちまうのなら、しょうがない。この黒い感情も、小さく嫌な自分自身のことも、まぎれもない自分のものとして、甘んじて受け入れてやろうじゃないかと。
最初のコメントを投稿しよう!