アフターストーリー3

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 だいたい、どうしたって解せないのだ。なぜ、草准という男がそれほどまでに自分に会いたがるのか……。  あの人が会いたいと言っている、会わせろとしつこい……峻介は何度となくそんな言葉を口にした。あの困り果てた様子からすると、それは嘘とも思えなかった。漣の恋人は、そんなことで嘘をつくような男ではない。  しかし漣は峻介ほど、相手の真意を楽観的にとらえるわけにはいかなかった。会いたがっているのは本当なのだろうが、どう考えても好意からとは思えない。  もしかして、会って、釘を刺すつもりなのだろうか、峻介は今も自分のものだと……。  上等じゃねーか、と漣は思った。  そういうことなら、受けて立ってやる。タイマンなら負ける気がしねえ。  芸術家だかなんだか知らないが、ひと睨みで追っ払ってやる自信はあった。  しかし、峻介のあの言葉が、彼の強気を挫くのだ。  ――君自身のために、あの人に会って欲しいと思っている……。  あーっ!! ほんと、わけがわかんねえ。  しかし城築峻介は、決してわけのわからないことを言う男ではない。彼が自分のためになると言うのなら、それは本当に自分のためになることなのだろう。そんな風にも思えた。  それぐらい彼は、この年上の恋人に対し、妄信に近いほどの信頼を抱いていたのだ。その恋人が会えと言うのなら、会わねばならない。  とにかく、会うしかないのだと思った。これ以上ごちゃごちゃと難しいことを考えるのは、性に合わない。  どんな結果になるにしろ、会えば、とにかくすっきりするだろう。  しかし、会わねばならないのだという事実は、重く彼の心を締めつけることになった。  長い付き合いであり、自分よりも恋人のことを知り尽くしているであろう男。そんな相手に、自分は本当に勝てるのだろうか……心は揺れる。  本当に今度こそ、自分は誰よりも愛しい恋人を失ってしまうのではないか……。  情けないことに、どうしてもその予感を拭いきれない漣なのだった。
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