アフターストーリー4

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 にぎやかな交差点での信号待ちの間、大きなスクリーンが不意に恋人の姿を映し出し、彼はうわっと思った。どうやら夕方のニュース番組で、城築峻介の国会での発言が取り上げられての映像だったようで、その姿はすぐに消えた。  政治家で有名人でもある恋人を持つのは、たまに心臓に悪い。自分までが誰かに見られているような気がして、あわてて地下鉄の階段を下りる。  とは言え……。  議員と、鳶職。天と地ほどかけ離れたイメージの職業だが、しかし漣は峻介と共にいて、不思議なほどその差異を感じたことがないのだった。  というよりも、政治家としての峻介のたたずまいが、そうした差異を感じさせないのだ。  はじめからそうだった。初めて会った時から、城築峻介は議員でありながら、議員にありがちな「お偉い」空気とは全く無縁の男だった。それどころか自身の職業が持つ力の大きさに悩み、政治家として自分に何ができるか、常に考え続けているようなところがあった。漣はそこに深くひかれたのだ。  その姿勢は一度政治の世界から離れ、戻ってきた今も変わらない。峻介を見ていると、政治家とは、ただひたすら人のために尽くす仕事なのだと漣には思える。それ以上でもそれ以下でもなく、だからこそ尊い。  ひるがえって、漣は漣で、鳶という自身の仕事にプライドを持っていた。  そう簡単に身についた技術ではないし、誰にでもできる仕事ではないという自負もある。実際、多くの者が仕事のきつさと困難さに音を上げて辞めていく中、技術に定評のある職人として彼は生き残ってきたのだ。  天にも届く高い建物を作るということには夢があるし、今回のように名のあるビルに関われることも誇らしい。  それに、人が生きている限り建物は必要なのだし、建物がある限り、メンテナンスや建て替えといったことが必要だ。そうしたことに関わるこの仕事は、確実に人の役に立つ仕事なのだ……というのは、峻介が言ってくれたことだが。  この恋人が、議員という自身の仕事と同じぐらい、鳶という仕事を尊重してくれていることもまた、漣のプライドを支えている。
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