アフターストーリー4

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 そして……少しばかり現実的な話になるが、真面目にやろうとすればするほど持ち出しばかりが増える若手議員の収入は、職人としてそこそこの技術を持つ自分のそれと、どうやら可処分所得という点ではそう大きく変わらないようであることも、実は漣の気を楽にしていた。  実家にいたころは母方の一族である古箭家の財力が城築峻介の議員としての体面と活動を支えていたが、家を出た今は援助も受けていない。テレビの仕事も大幅に減らした今、自身の生活のことを考えながら政治の仕事をせねばならないことに、このどこまでも生真面目な恋人は内心、彼なりの葛藤を抱いているようだ。  大丈夫だ、城築さん。いざとなったら俺が食わせてやるから、あんたはそんなこと考えずに政治に打ち込め。  口には出さないが(そして恋人も決してそんな事態を歓迎はしないだろうが)、実を言えば、それぐらいの心意気で、漣は仕事をしているのだ。  とはいえ、そんなことは誰も知らないことだ。  峻介のカミングアウトによって、多くの人に関係を知られることになった自分たちだが、また、多くの人がこの関係に差異を感じているであろうことも漣はわかっていた。だけど、そんなことはまあ、どうでもいい。自分たちはただ、それぞれの仕事と真剣に向き合っていればいい。  そう思わせてくれるのもやはり、大好きな恋人なのだった。  地下鉄の出口を出て商店街を抜け、漣は息子が留守番をする自宅へと急ぐ。すっかり遅くなってしまったから、今日はあいつの好きな総菜を買って帰ってやろうと思う。  帰りが午前になるらしい峻介とは、今夜は会えそうにないが、仕方がない。会えない夜は多くなったけれど、恋人が思い切り政治の仕事に打ち込んでくれていることは、それはそれで、漣には嬉しいことだ。  今夜恋人に寝込みを襲われ、激しく抱かれることになるのを、今はまだ、彼は知らない。
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