アフターストーリー5

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 峻介は喜んで出迎えてくれ、自分と大志が乗ってきたワゴンを自ら運転して、葉谷の街を案内してくれた。  戦場のような忙しさの事務所から主役を連れ出してしまうことに気後れした漣だったが、むしろ、秘書たちや支援者たちからは「頼むから一緒に行ってやってくれ」と懇願された。恋人と会えない日々の中、目に見えて憔悴しながらも空元気を発揮する「先生」の姿に、皆、気を揉み、そしてひそかに手を焼いていたらしい。 「あなたが来てくださるのを、心待ちにしていたんです」  などと、初対面に等しい者たちに口々に言われ、どうにも面映ゆい気持になったが、まあ、恋人を元気づけることも自分の役割なのかもしれないと考えることにした。  それでも、久しぶりのデートはやはり理屈抜きに楽しかった。  自然公園で大志を遊ばせ、道の駅で地元の名物料理を食べる。この土地のことをあれこれと話す峻介の瞳はきらきらと輝いていて、選挙演説で少し日に焼け、精悍さを増した顔立ちも相まって最高に格好良かった。行く先々で、自分たちのことも知っているであろう地元の人たちから声をかけられ、激励されるのも、少し恥ずかしかったが嬉しいことだった。  短いデートの最後に、峻介は自身も創設に関わったという市立美術館に2人を連れて行ってくれた。深い緑の中に建つ、趣のある美術館だった。  そうして、見たのだ。  ロビーの真正面にかけられてあった3枚の大きな絵を……。
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