アフターストーリー5

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 あわてて大志を起こし、寝ぼけ眼の息子の手をひいて電車を降りる。観光客や登山客でごった返すホームに出ると、自然と視線を集めてしまう。こんなことには慣れていた。  色褪せた髪に片耳ピアス。ダメージジーンズを腰履きし、胸元に鎖を光らせた華奢な身体の若造が子供を連れている姿は、どうしたって目立ってしまうらしい。  恋人のためにもこんなやんちゃな格好はそろそろやめた方がいいのではないかとも思うが、当の峻介がこうした格好を気に入っていることもあり、なかなかやめられないでいるのだった。  階段を降りてゆくと、ロータリーに停めた車の前で峻介が手を振っている。  少しばかり気恥ずかしい気持で手を振り返しながらも、ああーなんかいいな、と、漣は思わずにいられない。  久しぶりに遠目に見る恋人の姿は、際立っていた。ポロシャツにチノパンというカジュアルな格好なのに、何というか、気品がある……いや、色気と言って良いかもしれない。完璧な立ち姿だった。  変装、というほどでもないが、やはり視線を遮断するだめだろう。深めにかぶったキャップがまた新鮮で、たまらなく格好いい。  たまに外で会うってのも、いいもんだな……そんなことを思い、すぐに我に返って恥ずかしくなった。  俺、何、新婚夫婦みたいなこと考えてんだ?  いや、でも、まあ、いいかと思う。もしかしたら、幸せな時間はこれが最後ではないと言い切れないのだ。少しばかり悲壮な気持が戻って来る。  そんな漣の気持を知るはずもなく、峻介は少し眩しそうな顔で彼を見て笑い、肩に手を置いて、助手席へと促した。 「たまには待ち合わせというのも悪くないな。駅から出て来る君を見て、惚れ直した」  自分が考えていたことと同じ言葉を耳打ちされ、  不覚にも少しだけ、泣きそうになる。
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