アフターストーリー6

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アフターストーリー6

 急なカーブの続く山道を鮮やかなハンドルさばきで辿りながら、峻介はこれから来訪する相手のことを淡々と語った。 「まあ、家はボロに見えるだろうがあちこち中は直しているから、心配しなくていい。あの人は少しばかり偏屈で、時に辛辣なことを言ったりもするが、君たちを相手にそんなことは言わないと思う。年上だが、敬語は使わなくていいよ。親戚のおじさんか何かと思ってくれていいんだ……」  そんなことを話す恋人の、そのあくまで淡々とした表情に、漣は救いを覚えずにはいられなかった。  情けねえ……でも、やはり怖いのだ。怖いものなど何もないと思っていた彼だったが……。  道端に立ち並ぶ家々も途切れ、もはや塗装すら途切れた土くれの道の果てに、その家はあった。  昭和を思わせる木造平屋建ての一軒家。家の前には、ささやかな畑がある。峻介が小さくクラクションを鳴らすと、何やら作業をしていたらしい和服姿の人物が立ち上がり、手を振った。  当然ながらその人物は古箭草准であるはずなのだが、漣は一瞬、信じられず、目を瞬かせる。  畑仕事とか、する人なんだ――。  現実的な仕事など何もせず、ただ絵ばかり描いている浮世離れした人物を勝手に想像していた。しかしまあ、よく考えてみれば、ひとり暮らしをしているというのだから、そんなはずもないのだった。  とはいえ、かぶっていた麦わら帽を取って笑顔で3人の前に立った彼のその容姿は、確かに浮世離れした美しさだったが。
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