アフターストーリー6

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 濃紺の和服からのぞく、抜けるように白い肌。汗ひとつかかない額にふわりと落ちかかる薄い色の髪。笑みのために細められた澄んだ瞳も、すっと通った鼻梁も、心持引き上げられた形の良い唇も、何もかもが淡く、間近に向き合うと、ふっと現実感が遠のくような心地になる。  ふだん人の容姿など気にするはずもない子供の大志ですら、少しばかり気圧された顔をしているほどだ。 「連れて来たよ。草准さん。あんたが会いたがってた、大志と、漣だ」  しかし当然ながら峻介は、そんな叔父の見慣れた容姿になど気を払う様子もなく、淡々と言葉を発する。  漣ではなく、息子の大志を先に紹介したのは、そうすることが無難だと本能的に悟っていたのかもしれない。大志はすぐに生来の物怖じのなさを取り戻し、「こんにちは」と頭を下げた。 「君が、大志か……」  草准は少しぎこちなく手を伸ばして大志の頭を撫でた。もしかすると、子供というものがあまり得意でないのかもしれない。  その視線が自分に向けられると同時に、漣は「どうも…」と小さく会釈を返した。最低限失礼にならない程度に、表情を和らげて。  何しろこれは、タイマンなのだ。必要以上の愛想はいらない。ただ息子の手前、あまり礼を失した態度をとるわけにもいかない。  そんなぎりぎりのバランスを保った漣の表情を、草准は少しだけ目を見開いて見つめた。  その瞳に一瞬、「惚れ惚れ」とした色が浮かんだような気がしたのは……気のせいだろうか。 「やあ、遠くからよく来てくれたな。ちょうど新鮮な野菜が採れた。今夜は美味しいサラダを作ってあげるよ」  みずみずしいレタスやトマトの入った浅い籠をかかげ、満面の笑みを浮かべて彼は言い、先に立って歩き出した。やはり何だかくえない男だと、漣は反射的に反発を覚える。  思わず、といった風に峻介は小さな苦笑を浮かべて、漣を促した。  やばい、いろいろバレちまったかもしれないと思いながら、彼は恋人と連れ立って、草准の後に続く。  家の前に広がる田んぼの上を、ぬけるような青空をバックに、たくさんの赤とんぼが飛び回っていた。
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