アフターストーリー6

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 その後、草准は自らのアトリエを案内してくれた。  古びた棚にずらりとならぶ岩絵の具の瓶や、畳の上に投げ出された書きかけの絵などに、大志は興味津々の様子だ。屈託なくあれこれと尋ねてくる子供の存在にどうにか慣れてきたらしく、草准はぎこちない笑みを次第に和らげつつ答を返していた。  そんな叔父の姿を、峻介は笑いを堪えたような顔で見守っている。漣もまた思わず微笑ましい気持になりかけ、はっと気持をひきしめた。  だまされちゃだめだ。こいつは、自分の愛しい恋人を奪おうとしている男じゃないか。  緊張のあまりか、疑念に妄想が混ざりつつあることに、漣は自分で気づいていない。  ダイニングに場所を移して落ち着くと、桃のゼリーと冷たい麦茶がふるまわれた。ゼリーは、近所の果樹園から買った桃を使った手作りらしい。先ほどの畑といい、彼がほどんど自給自足に近い生活を送っていることがうかがえる。  想像以上にまめな男のようだった。ますますイメージがわからなくなってしまう。  古びた部屋は、何の変哲もない、昭和の匂いのする台所だ。しかし変に洒落たところがない分、居心地が良いように思える。  なんていうか、「田舎のおばあちゃんち」という感じなのだ。  都会育ちで親戚もほとんどいない漣には、もちろん現実にそんな場所はないが、そういうところがあるとすれば、きっとこんな感じに違いないと思う。  そう考えると、ゼリーをぱくつく子供をにこにこと笑みを浮かべて見守っている和服姿の男の表情まで、「田舎のおばあちゃん」めいたものに見えてきて、漣はますます落ち着かなくなった。  すましていればきっと冷たく見えるほどの美貌に違いないのに……やっぱり、どうにもキャラがつかめない。
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