アフターストーリー6

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 それでもまあ、一応は大人らしく峻介を介してあれこれと無難な会話を交わしていた漣だったが、しばらく経つと、大志の方が、落ち着かなげにそわそわし始めた。どうやら退屈になってきたらしい。 「父ちゃん、俺、ちょっと出てってもいいかな?」  遠慮がちにそう訊いてくるのも、もっともだと思い、「そうだな、一緒に行こうか」と漣は腰を浮かしかけた。しかしそれよりも早く、「いや、僕が行こう」と峻介が立ち上がった。 「近くにきれいな川がある。網を持って行こう。魚が獲れるかもしれないぞ」 「本当に、そんなもの獲れるのか?」  大志が疑い深げに言うと、「獲れるさ」と草准が横から答えた。 「僕はいつも、自分の食べる魚ぐらいはつかまえているからね。今度、一緒に釣りに行こうか」  さ、魚まで獲るのか、この人は……。  漣は唖然とした。当人にまったくそんなつもりはないだろうが、その笑みが、勝ち誇ったものに見えてきてしまう。  わけもなく完敗のような思いをかみしめているうちに、恋人は息子と共に出て行き……。  気がつけば漣は、このどうにも油断のならない男と2人きり、静かな台所に取り残されていたのだった。
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