2738人が本棚に入れています
本棚に追加
アフターストーリー7
いきなり空気が密度を増したような静けさに、漣は少しばかり困った。
意外だったのは、草准も困った様子を隠そうとしなかったことだ。イメージ上、余裕の笑みで対峙されると思っていたのに、何から話して良いかわからない、といった風にうつむいている。その様子に、ちょっと胸を突かれた。
自分の感情はどうあれ、とにかく詫びのひとつは入れておかないと……不意にそんなことを思う。敬語は使わなくていいと峻介に言われていたから、話し出しやすかった。
「長い間、来られなくて、悪かった。あんたは城築さんが昔から世話になってる人なのに」
草准はわずかに目を見開いて漣を見たが、やがて表情を緩ませ、小さく笑う。
「君は本当に義理堅い子なんだな。峻の言ってた通りだ」
城築さん、俺のこと、どんな風に話してんだ? 自分を「義理堅い」などと思ったことのない漣は、何と返して良いのかわからず、戸惑う。
「別に義理など感じることもないし、君はいろいろ忙しかったと聞いてる。気にすることはないさ……と言いたいところだが……」
笑みが消えると、整った顔に僅かな影が差し、漣は少しどきりとした。
「本当はずっと、僕に会いたくなかったんだろう? 君にはいろいろと嫌な思いをさせていたと思う」
「ちょ…ちょっと待ってくれよ。俺は別に、あんたに対して思うところは何も……」
あわててそう答えると、草准は「そんなはずはない」と返して、きっと顔を上げる。
「自分の恋人と寝ていたなんて男の存在を知って、冷静でいられるはずがないだろう。会いたくなどないと思うのも当然だ」
わかったような口調でそんなことを言われ、漣の心は少しばかり、波立つ。
最初のコメントを投稿しよう!