アフターストーリー7

1/5
前へ
/425ページ
次へ

アフターストーリー7

 いきなり空気が密度を増したような静けさに、漣は少しばかり困った。  意外だったのは、草准も困った様子を隠そうとしなかったことだ。イメージ上、余裕の笑みで対峙されると思っていたのに、何から話して良いかわからない、といった風にうつむいている。その様子に、ちょっと胸を突かれた。  自分の感情はどうあれ、とにかく詫びのひとつは入れておかないと……不意にそんなことを思う。敬語は使わなくていいと峻介に言われていたから、話し出しやすかった。 「長い間、来られなくて、悪かった。あんたは城築さんが昔から世話になってる人なのに」  草准はわずかに目を見開いて漣を見たが、やがて表情を緩ませ、小さく笑う。 「君は本当に義理堅い子なんだな。峻の言ってた通りだ」  城築さん、俺のこと、どんな風に話してんだ? 自分を「義理堅い」などと思ったことのない漣は、何と返して良いのかわからず、戸惑う。 「別に義理など感じることもないし、君はいろいろ忙しかったと聞いてる。気にすることはないさ……と言いたいところだが……」  笑みが消えると、整った顔に僅かな影が差し、漣は少しどきりとした。 「本当はずっと、僕に会いたくなかったんだろう? 君にはいろいろと嫌な思いをさせていたと思う」 「ちょ…ちょっと待ってくれよ。俺は別に、あんたに対して思うところは何も……」  あわててそう答えると、草准は「そんなはずはない」と返して、きっと顔を上げる。 「自分の恋人と寝ていたなんて男の存在を知って、冷静でいられるはずがないだろう。会いたくなどないと思うのも当然だ」  わかったような口調でそんなことを言われ、漣の心は少しばかり、波立つ。
/425ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2738人が本棚に入れています
本棚に追加