アフターストーリー8

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「でも、わかっただろう。草准さんは、ああいう人だ。君が心配するようなことは、何もないんだ」  ああ、やっぱり心配していると思われてたんだ、と気づく。素直に認めるべきか、突っぱり通すべきか迷っていると、こちらの答を待たず峻介は言葉を重ねてきた。 「むしろ心配しなきゃならないのは僕の方だ。前々から君にご執心だと思っていたが、まさか会ったとたんに口説くとはな。まったく、とんでもないおっさんだ」  その横顔には、憤懣やるかたない表情がはっきりと浮かんでいる。 「お、おっさんって……城築さん……」  彼がそんな言葉を使うのを初めて聞いた。しかも、あの美しい人をつかまえて「おっさん」呼ばわり。怒りのあまりキャラが変わっている。  漣は思わず、ため息のように呟いた。 「城築さんでも、ヤキモチ妬くことあるんだな」  峻介は一瞬、虚を突かれたように黙り込む。  車は山道を抜け、にぎやかな街へとさしかかっていた。赤信号で車を止め、彼は少しばかり呆然とした表情で、漣を見た。 「漣、僕は自分でも相当嫉妬深いという自覚があるんだが、君は、気づいていなかったのか?」 「いや……だってその、城築さんが妬くとこなんて、見たことなかったし」  再び走り出した車は、街の真ん中にある大型スーパーに入っていった。駐車場でエンジンを切り、峻介は独り言のように呟く。 「君は……そもそも僕たちが……」 「え……?」 「いや、その、つまり……僕たちが、思いを通じ合わせるきっかけになった出来事を覚えているか? まあ、あまり思い出したくないことではあるが――」  唐突にたずねられ、漣は戸惑いつつもうなずく。  確かに、あまり思い出したくはない出来事だ。
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