アフターストーリー8

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 少しばかり奔放すぎる自分の過去を恋人に知られることは憚られ、漣はそうしたことを峻介に話したことはない。街で会う昔馴染の女の子たちの誰が元カノで、誰が寝た相手かなんて、知りようもないはずなのだけれど……。  もしかして、この人は気づいているのか。  自分たちの住む街が、地雷だらけだってことに。  そういうことだったのか……。今度は漣が、ダッシュボードに突っ伏す番だった。  政治家などという仕事をしているせいか、穏やかな見かけに合わず、意外に勘の鋭いところのある恋人だ。あのにこやかな笑顔は、すべてわかって、複雑な思いを飲み込んでのことに違いなかったのだ。 「れ……漣、どうした?」  驚いたような恋人の声が降ってくる。しかし今心に浮かんだことを話し、真偽を確かめる勇気はない。 「城築さん。その……いろいろ、ごめん――」  唐突なことを承知で、ただ詫びた。そっと顔を上げて様子を伺うと、峻介は案の定、訝し気な表情を浮かべている。  何、言ってんだ俺……。思わず顔が赤くなる。    と、不意に、峻介の唇が近づき、漣のそれにそっと触れて、離れた。  キスされたのだと気づいて、漣は慌てる。何しろフロントガラスの向こうは、次々に車や人が行き交うにぎやかな駐車場なのだ。 「き、き……城築さん!!」 「いや、意味はよくわからないが、謝る君は可愛いと思って――」  真っ赤になった漣を愛し気に見やって峻介は答えた。そして、何事もなかったかのように落ち着きを取り戻し、「行こうか」と笑って、車のドアを開けたのだった。
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