アフターストーリー9

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アフターストーリー9

 草准の作ったポトフは絶品だった。  キャベツやじゃがいも、たまねぎといった味の濃い自家製の野菜に、柔らかく煮込まれた牛のかたまり肉、そして地元の農家が共同で町おこしのために作っているというソーセージ。いつもなら野菜や煮物といえばテンションが低くなってしまう小学生の大志ですら、「めちゃくちゃうまい!!」と目を輝かせてぱくついたほどだ。  他にも秋ナスのマリネやキノコのソテー、昼間採れたレタスやルッコラやトマトに生ハムをのせたサラダなど、シンプルだが丁寧に作られたご馳走が食卓には並んだ。  困ったことに、どれもやたらワインに合う。車のために飲まない恋人には申し訳なかったが、その恋人が熱心にすすめてくれるせいもあって、いくらも経たないうちに、漣はほろ酔いになってしまう。  すっかりこの場に馴染んだ大志がこんなことを口走った時には、さすがに少しばかり酔いが醒めてしまったが。 「すげえな、絵も描けるし料理もうまいし、何でもできるんだな、草准は」 「大志!! 大人を呼び捨てにするな!!」  思わず漣は息子を鋭く睨み、言った。  しかし大志は小さく肩を竦めただけで、動じる様子もない。大の男を震え上がらせると言われる眼力が、自分の息子に対してだけは今ひとつ効かないのが、いつもながら腹立たしい。  漣は小さくため息をつき、「悪い」と草准に詫びた。  しかし草准はといえば、こちらもまた、すでに出来上がりつつあったのだろう。気にする様子もなくにこにこと笑って答える。
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