アフターストーリー9

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「いいんだ、漣。むしろ呼び捨ての方が嬉しい。僕たちは友達だからね」  ある種の大人というのは、幼い子に呼び捨てにされることを好むのものなのだろうか。峻介もまた、会って間もない大志が自分を呼び捨てにして友だちのように接するのを、まんざらでもない風に許したことを漣は思い出す。  しかも、あの子にはきちんと、呼び捨てにして良い相手と良くない相手の区別がついている、と峻介は言うのだ。こればかりは漣も疑わざるをえないのだが。  とはいえ、ここで目くじらを立てるのもなんだかばかばかしく、漣は息子の髪を強めにぐしゃっとかき乱して、これ以上の咎めはなしにしたのだった。  その後は和やかに宴は進んだ。話題と言えば、それぞれの仕事の話が多かっただろうか。何しろ政治家と、日本画家と、鳶職人が一堂に会したのだ。互いに興味は尽きない。  こうした場であれば必ず出て来るはずの、思い出話めいた話題を2人が一切出さなかったのは、やはり自分に気をつかってのことだろうと漣は思った。  そして、気づいたことがある。草准と話す時、峻介は自分のことを「俺」と言う。そして話し方もいつもと違って、何とはなしにざっくばらんなのだ。それだけ親しいのだと思うと、少しばかり妬けないでもなかったが、その男っぽい言葉づかいはたまらなく新鮮だった。  なんて、格好いいんだ、城築さん……。  深まる酔いのせいもあったのだろう。すっかり、ぽーっとなってしまった漣は、そのことについても、あまり深く考えはしなかったのだが……。
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