アフターストーリー9

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「あんだけ疑われるとか、いったい草准さん、どういうキャラなんだよ」  今朝のことを思い出し、漣も笑いを堪えながら言った。そうした軽口を飛ばせるぐらいには、気やすい仲になっていた。  草准も笑いながら言葉を返す。 「まあ、そういうキャラだよ。せっかく2人きりになれたんだから、すぐにでも君と、どうにかなりたいところだが……」  さらりと言って漣をわずかに慌てさせ、しかし彼はすぐに真顔に戻った。 「今は、話をしなきゃ……」  そう言って草准は隣に座る漣の方に向き直り、縁台に置かれた彼の手の甲に軽く手を重ねて、言葉を繋げた。 「漣、君は今もまだ、僕と峻のことで、腑に落ちない思いを残しているんじゃないか?」  不意に重ねられたぬくもりと、核心を突かれたような心地に、漣は目を瞠る。 「な……なんで、そんなこと――」 「きのう君を見ていて何となく、そんな風に思えたんだ。違ったかな」  しどろもどろに問いを返す漣に、草准はこともなげな調子で答えた。  漣は、何と答えてよいか、わからなくなる。  確かに昨夜、3人で屈託のない会話を交わしながらも、思わずにいられない瞬間がないでもなかったのだ。  どうして、この2人は……と。  もちろんそれはもう、嫉妬や不安とはまったく別の思いからくる感情だった。ただ純粋に解せない。「腑に落ちない」という言葉が、言われてみればぴったりくる。 「なんか、見透かされてんなぁ……」  漣は思わず、ため息まじりに呟いた。そして顔を上げ、高い空を見上げる。  雲ひとつない透明な空が、どこまでも広がっていた。どこかで小さく鳥の声が聞こえる。なんだか頭がぼーっとする。  気持の良い風が、髪を乱した。漣は草准の方を向き、言った。 「俺は、あんたたちのことがまだよくわからない。わからないってことが、きつい。格好の悪い話だけどさ」  淡い瞳が少しだけ真剣さを帯びて、こちらを見つめる。思わずドキリとして目を伏せた。やばい、やっぱり、この人の美しさにはいまだに慣れない。 「と、とりあえず、その手は外してくんねーかな。そうしてくれるのは嬉しいけど、ちょっと、話がしにくいかも……」  うつむいたまま呟くと、草准は少し赤くなって、重ねた手をぱっと外す。
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