アフターストーリー10

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アフターストーリー10

「実家に居た頃の写真だ。家を出る時に無理やり持たされてね。峻もたびたび遊びに来ていたから写ってる。なかなかレアだぞ」  確かにレアだ。深刻な話をしていたことも思わず忘れてにわかに興味を覚え、漣は促されるままにページをめくる。  そして、胸の中で叫んだ。  て……天使か!!  今の大志より少し小さいぐらいの頃の恋人が、写真の中で、無邪気に笑っている。それは、見る者の心に明かりを灯すような、そんな笑みだった。  それでいて、今に通じる凛々しさも既に芽生えている。城築さんはやっぱり、小さくても城築さんだ……そう思わずにはいられない写真ばかりだった。  しかし……中学生になった頃あたりからだろうか。  漣は、少しずつ違和感を覚え始めた。学ランを着た恋人は惚れ惚れするほど格好いいが、小さい頃とは何かが違う。  笑顔の質が、違うような気がするのだ。 「気づいただろう。君も……」  黙って漣を見守っていた草准が、不意に言った。 「峻の母親も、他の姉たちも全く気づいていないが、君ならわかるだろうと思った。この頃の峻は、本当に笑ってはいない」  その頃に草准は実家を出たのだろう。アルバムはそのあたりで終わっていた。しかしおそらく、高校、大学と歳を重ねても、峻介が同じ笑顔で写真に写っているであろうことは想像できた。  何と言えばいいのだろう。それは、いつも恋人が自分や大志に向ける笑みとは違っていた。あえて言うなら、テレビで騒がれる「峻さまスマイル」に似ているかもしれない。ただ、なぜだかわからない、見ていると漣は胸が痛むのだった。 「いろいろ、きつかった……ってことなのかな。ずっと……」  そう尋ねずにはいられない。草准はうなずいた。 「あいつは、ずっと孤独だった。自分が男にしかひかれないことに気付いたこの頃から、誰にも言えない自分自身を抱えていたんだ」  沈痛な表情で、草准は話し続けた。
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