アフターストーリー10

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「僕も比較的早く自分がゲイだということに気付いたんだが、あいつとは置かれた環境が違った。古箭家の一員と言っても、僕は後妻の息子で気楽な末っ子だったからね。絵の道を選んだことでなおさら、変人でいても許される立場になった。まあ、それはそれで、まったく問題がなかったわけではないが……」  草准は言いよどみ、それ以上自分のことは話さなかった。漣は少し気になったが、今は、恋人の話だ。 「とにかく、僕は峻ほど深い悩みを抱えずにすんだんだ。家族に隠してではあったが、あれこれ考えず、気楽に男と付き合ったり寝たりすることができた。しかしあいつは違う。ひとりしかいない城築家の跡取りとして、政治家以外の道を選ぶことなど考えられない環境で育った。つまりは結婚して新たな跡取りをなさねばならないということも含めてね。そんな中で、自分が男しか好きになれないことに気づくということがどういうことか、想像はつくだろう」 「……わかるよ」  漣は思わず呟いた。胸が激しく痛む。 「本当に、よくわかる。どうして今までわからなかったんだろう……」  それはつまり、十代の初めという若さで、自分が本当の自分でいることは許されないと悟るということだ。あの誰よりも真っ直ぐな人が、長い間自分を偽りながら生きなければならなかったのだ。  僕は、君に出会って、本当の自分を取り戻せた……。  あの言葉のとてつもない重さに、漣は今、初めて気づいた。自分は本当に何もわかってはいなかった。 「峻と、初めて寝た時の話をしてもいいかな」  草准は尋ねた。迷いなく漣はうなずく。聞かなくてはならないと思った。
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