アフターストーリー10

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「高2ぐらいの頃だったと思う。付き合ってた女の子と別れたと言って、あいつは泣いていた。何度かは無理して抱いたけれど、とうとうできなくなったと。好きでもない女の子と無理に付き合って、結局は傷つけて、俺はひどい男だ。こんなことはもう嫌だ…ってね……」  話すことは支離滅裂だったが、自分にはその意味がわかったと草准は言った。峻介がそうであることは、見ていて薄々わかっていたから。わかっていながら何もしてやれないでいたからと……。  しかし彼がそこまで追いつめられていたとは、草准も気づいていなかった。 「まだ高校生だったんだから、カモフラージュで女の子と付き合うなら、キス止まりにしておいてもよかったんだ。なのにあいつは、抱かなきゃならないと思ってた。本気でヘテロとして生きようとしていたんだ。努力すればそうなれると信じていたんだろうね。相手の子のことも、ちゃんと本気で好きになるつもりだったんだろう。でも、上手くいくわけがなくて、結局、その子を傷つけて、そのことで自分も深く傷ついて……多分、そんなことを何度か繰り返していたんだと思う。もう限界だってことが、見ていて痛いほどわかった」  峻介に女の子と付き合った過去があったことを、漣は初めて知った。しかしそれは嫉妬の対象になりようもない、あまりに痛々しい過去だった。あの優しい人が、人を傷つけざるを得なくなるようなことを繰り返して、どんなに辛かっただろうと思う。  そして不意に悟った。昨夜2人が思い出話めいた話を一切しなかったのは、自分に気をつかってのことじゃなく、話せば必ず辛い出来事に繋がってしまうからだったのだ。  草准は、淡々と話し続ける。 「小さな頃から弟みたいに可愛がっていた少年にそんな風に泣かれて、僕もとうとう放っておけなくなってしまったんだ。こんなことになるまで何もしてやれなかった後ろめたさもあったしね。僕で楽になるならと、誘ってしまった。本当に、すまない」  不意に詫びられ、漣は目を瞠って首を横に振った。 「あんたが、ぎりぎりのところで城築さんを助けてくれたってことじゃないか。俺は感謝しなきゃならない」  この叔父が手を差しのべることがなければ、少年だった自分の恋人は、そのまま壊れてしまっていたかもしれない。  そう思うと、感謝しかない。
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