アフターストーリー10

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「本当に感謝してる。あの人を助けてくれて、ありがとう」  繰り返すと、草准は緊張が解けたようにふっと表情を緩めた。  もしかするとこの人も、心のどこかで悩み続けていたのかもしれない、と思う。この関係が甥にとって本当に、正しいことだったのかと……。 「それで、君の質問に対する答えなんだが、その後長く僕たちが寝る関係が続いたのは、成り行きとしか言いようがないんだ」  小さく苦笑を浮かべて、草准は言った。 「またこんな話をしてすまないが、僕は峻に、気軽に他の男と寝ることをすすめたこともあったし、あいつもそうしていた時期もあった。ただ、あいつは根っからそういうことが面倒な性質みたいでね。それにあいつの場合、身元の不確かな男を相手にするのはリスクが伴う。政治に関わるようになってからは、ただ安全だという理由で、僕と寝ていたんだと思うよ」  淡々と説明されると、邪推していたことがまったく馬鹿らしくなるほど、明快な答だった。  気持がなくとも叔父と寝続けたのは、ただ、安全だったから。哀しくなるほどシンプルな理由だ。 「まあ、それでも、それなりに惚れた相手もいないでもなかったようだけど、なぜか大抵、相手はヘテロでね。あいつははなからあきらめてしまうんだ。つまりは、その程度の気持だったってことだな。だから……」  不意に真剣な瞳をして、草准は続ける。 「僕は、奇跡だと思っている。峻が、どうしてもあきらめられないほど、強い気持で君を好きになったこと。そして君が同じだけの気持をあいつに返してくれたこと。こんなことは、絶対に起こり得ないと思っていたからね。正直、最初のうちはあいつとの関係がなくなったことが寂しくないわけじゃなかったけれど……」  そう言いかけて、草准はあわてたように付け足した。 「あ、誤解しないでほしいんだが、僕の方は、ずっと峻だけと寝ていたわけじゃない。だから、そういった意味での執着とか未練みたいなものは、まったくないんだ。ただ、何て言うんだろう」  しばらく考え、少し笑って、彼は言った。 「子育てが終わった親みたいな気持、っていうのかな? 実際、肩の荷が下りたような気もしてるしね。ただ、まあ、ほっとし過ぎて寂しいんだろうな」
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