アフターストーリー10

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 その言葉に漣は胸を突かれ、切なくなる。  この人はたしか……まだ36歳だ。子育てが終わったなどとふさぎ込んでしまう年齢じゃない。漣の母親である静子も、大志の祖母で40を超えた歳でありながら、恋人もいて、自らの人生を謳歌している。 「草准さん、あんたは……その――」  傲慢な問いかもしれないと思いつつも、漣は尋ねずにいられなかった。 「あんたほどの人だったら、寝る相手には困らないんだろうけど、本気で誰かを好きになるってことは……ないのか?」 「奇跡はそうそう起こるものじゃないからね」  草准はこともなげに笑って答える。 「それに、峻を見ていると、奇跡をものにするものなかなか大変そうだ。僕は、あんなにパワフルにはなれないよ」  確かにそうだ。自分たちの関係を周囲に認めさせるために、恋人がどれほどの苦労を重ねてきたか、漣が一番よく知っている。自分はただ、幸運だったのだ。そう考えると、それ以上は何も言えない。 「もっとも、あいつも初めからそうだったわけじゃない。君と出会って、あいつは変わったんだ。信じられないほど逞しくなった。それもまた奇跡だな。無責任なことを言うが、奇跡は傍で見ていてこそ楽しいものだよ。当事者たちは大変だろうが」  楽しそうに続ける草准の言葉に、してらやられた、という気持にならないでもなかったものの……。  それでも漣は、思わずにはいられなかった。  この美しい人にもいつか、本当の奇跡の訪れることが、あって欲しいと。
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