アフターストーリー11

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アフターストーリー11

「漣……」  グラスを片付けながら、草准は漣の名を呼んだ。 「これからも、僕には何だって話してくれていい。峻に話せないことや聞けないこともあるだろう。あいつにもそういうところがあるが、君もどうやら、恋人に格好の悪いところを見せられない性質のようだからね」  またしても、見透かされてる。漣は苦笑するしかなかった。 「まったく……かなわねーな。草准さんには」 「まあ、君たちが……というより、恋人同士というのはそういうものなんだろうな。所詮僕にはわからないことだが――」  草准は笑って答え、ふっと真顔になる。 「でも、僕には話してくれていいんだ。惚気だって愚痴だっていい。君は男と付き合うのは初めてだから、戸惑うこともあるだろう。君にはおそらく、そうしたことを話せる相手がいない。聞いてやれるのは僕しかいないんじゃないかと、ずっと思っていた」  その言葉に、漣は胸を突かれる。  確かに……ヘテロとして生きてきた彼には彼の孤独があった。彼を慕い、尊敬する昔の仲間や同僚はいるが、それだけに、突然男を好きになった自分の気持を本当にわかってもらえるはずもない。峻介と共にいることで生まれる様々な感情は、嬉しさにしろ不安にしろ、誰とも共有するわけにはいかないものだ。  もともと人と馴れ合うことは好きじゃないから、さほど寂しいとも思わずにいたけれども……。  今、草准の言葉が、ひどく心強く感じられる。  そのどこまでも優しい言葉に、漣は初めて、自身の孤独に気付かされたのかもしれない。 「ありがとう、草准さん……」  今の感情をどう言葉にすればよいのかわからず、ただシンプルに、漣は答えた。 「俺も、あんたの話が聞けたらって思うよ。何だっていいから、あんたの力になりたい。困った時は、何があっても助けるよ」  だって、俺はもう、あんたのことを家族だと思い始めてるから……。  さすがに、そこまでは口にできなかったけれど。  草准は一瞬だけ、感動の色を瞳に浮かべたが、照れてしまったのだろう。すぐに感情をかき消し、小さく笑う。 「君は、頼もしいな」  そう言って彼は立ち上がり、台所へと消えた。
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