アフターストーリー11

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   その後しばらくの間、なんだかぼんやりとしてしまった漣を、草准は放っておいてくれた。  奥の台所から食器を洗う音が聞こえる。手伝わなきゃと思いながらも、漣は縁側に座ったまま、どうにも動けないでいた。気が抜けてしまったのかもしれない。  峻介にもまた、同じようにこの場所に座って、風に吹かれながら物思いにふけった時間が何度となくあったのだろうか……ふと、そんなことを思う。  そうして、ぼんやりとしたまま透明な秋の空を眺めていると……。  不意に、じわりと涙が視界に滲んで、漣は慌てた。  まいったな……と思う。城築さんのこととなると、どうして俺はこうも涙もろくなってしまうんだろう。  こぼれ落ちそうな涙をどうにか堰き止めようと堪えていると、車の音が聞こえてきて、漣はさらに焦った。シルバーのセダンが玄関前に停まり、峻介が姿を現す。そうして、縁側に座った漣の姿を認め、笑顔で手をふった。  その屈託のない笑みに、漣はますます胸がいっぱいになってしまい、困る。 「き、城築さん……仕事は?」 「君たちをふたりきりにしておくのがどうにも心配でね。大急ぎで終わらせて、帰ってきた」  峻介は大真面目に答えた。漣は思わず呆れてしまい、「冗談だろ…」とつぶやく。一瞬、涙を取りつくろうことも忘れてしまった。  そんな漣の顔を見て、峻介もすぐに何か気づいたらしかった。隣に座り、訝し気な表情で間近に顔をのぞき込んでくる。 「襲われていないようで安心したが、草准さんとは、どんな話を?」 「いや……アルバムとか、見せてもらって……」  慌てて目をそらしながら、しどろもどろに漣は答えた。その隣に置かれた古いアルバムを見て、峻介は何もかも悟ったらしい。複雑な表情で「そうか……」とつぶやく。 「どうやら、格好の悪い話を、草准さんが聞かせてしまったらしいな」 「かっこ悪くなんかねーよ!!」  思わず勢い込んで漣は答える。そうして、言わずにはいられなくなって、続けた。
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