アフターストーリー12

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「城築さんが自分のこと『俺』って言ってたのとか、めちゃくちゃクるっていうか、格好良くてさ。なんか、ドキドキした」  あまり深く考えず口にしたことだが、どうしてか、峻介は困ったような表情になる。 「ご、ごめん、何か気にさわったかな」  漣は慌てて詫びた。峻介はやはり複雑な表情のまま、「いや…」とかぶりを振った。そうして少し考え込む様子を見せた後、「君にはもう、いろいろと知られてしまっているだろうから……」と、言葉を繋ぐ。 「君に出会う前の僕は、時おりあの家を訪ねて、本当の自分自身に戻ることで、どうにか日々を乗り越えていたんだ。僕が無理なく本当の自分でいられた時期といえば、せいぜい中学の初めぐらいの頃までだったから、あの家にいる間は、自然とその頃の喋り方になっていたんだと思う」  淡々と話すその言葉と表情に、漣は胸の痛みを覚えた。  あいつは、ずっと孤独だった。誰にも言えない自分自身を抱えていたんだ……草准の言葉が思い浮かぶ。  ゲイであることを隠して理想的な跡取りとして生きることは、やはり想像以上に苛酷なことだったに違いなかった。時おり叔父の家を訪ね、何も考えずにいられた頃の自分自身に戻らずにはいられないほどに。  ただ安全だから峻介は自分と寝ていたのだと草准は言った。でも、少し違うのかもしれないと漣は今、思う。  自身の全てを知る叔父の家で過ごし、彼を抱くことは、かつての峻介にとって、束の間だけでも本来の自分自身を取り戻すための、なくてはならない儀式のようなものだったのではないだろうか。
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