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峻介は、話し続ける。
「でも、君に出会って僕は本当の自分を取り戻せた。だからもう、昔の自分に戻る必要などないし、自分のことを『俺』なんて言うような喋り方はしなくてもいいはずなんだ。実際、最近はあまり言わなくなったと草准さんには言われていた。なのに昨日と今日は、いつの間にか戻ってしまっていたな。君にはあんな格好の悪い喋り方を聞かせたくはなかったんだが…」
「…ってことは、あんたはまだ、いろいろと苦しいままなんじゃないのか?」
漣はきかずにはいられなかった。難しいことはわからないが、恋人がいまだ、本当の自分を取り戻せず苦しんでいるのだとすれば、彼としては捨て置けない。
しかし峻介は、「いや、それは違うな」と苦笑した。
「今日の僕は少しばかり……いや、相当、緊張していた。昔みたいに、自分のことを『俺』なんて言ってしまったのは、プレッシャーのせいだろう」
漣は「え?」と目を瞬かせる。
「な、なんで城築さんが、緊張なんか……」
自分は確かに、草准に会うにあたってかなり気持が張りつめていたが、峻介が叔父に会うのに、なぜ緊張などする必要があるのだろう。しかも最初から最後まで、彼の態度はずっと、いつもと変わらなかったのだ。
まさかこの人が緊張しているとは、夢にも思わなかった。
「僕は、怖かったんだ……」
峻介は再び小さく苦笑を浮かべて、言った。
「僕が、君自身のためにいずれ君と草准さんを会わせたいと思っていたのは本当だけれど、そう急ぐこともないと呑気に考えていた。君が、まさか僕と草准さんのことを気にしているとは思ってもみなかったからね。しかし草准さんが、とにかく一度訊いてみろと、あまりにもしつこく言うものだから、訊いてみたら、君は意外にも複雑な反応で……」
「ふ、フクザツ……だったかな」
少しばかりうろたえて、漣は尋ねる。
自分と叔父のことをやはり気にしているのかと峻介に問われた時には、漣自身ですら自分の複雑な胸の内を意識していなかったはずなのだが……。
しかし峻介は大真面目な顔でうなずいた。
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