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「だから僕は慌てた。とにかくあの人に会えばわかってくれるだろうと思って、それで少しばかり強引だとは思ったが、会ってもらうことにしたんだ。君の気がすすまないのはわかっていたんだが……」
確かに、あの時の峻介はいつになく押しが強かった。それだけに漣もその後、あれこれ考えずにはいられなくなったのだ。
しかしそれが、恋人がそこまでの不安にかられての行動だったとは、思いもしなかった。
「でも、もし、会ってもなお君の誤解が解けなかったらどうしようと思うとね。そうなると僕は2人の男を手玉に取る、とんでもない悪人じゃないか。もしかすると君に愛想をつかされて、捨てられるかもしれないと……」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ」
漣は思わず峻介の言葉をさえぎる。
「怖かったのは俺の方だ。…って言っても俺は、城築さんのことは、これっぽっちも疑ってやしなかったよ。でも、もし、あの人が…草准さんが本気であんたを取り戻したがってるとしたら、俺は勝てないかもしれないって……」
「何を言ってるんだ!! 勝てないわけがないだろう」
今度は峻介が声を高くして漣の言葉をさえぎる番だった。
「こんなことは絶対ありえないと保証するが、まあ、仮にだ。もし、仮に、あの人が君に張り合おうなんて気を起こしたとしても、絶対に勝てるはずがない。これは僕が君を好きだから言うんじゃない。どう客観的に見ても、そうだろう」
いや、城築さん、それはかなり、惚れた欲目が入ってる。その場合、どう客観的に見てもあちらの勝ちだ……。
思わず胸の中で呟いた言葉を口に出せるわけもなく、漣はどうにもくすぐったい気持で、黙り込んでしまう。
そして、何だか、笑えてきた。
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