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「そっ……か――。城築さんも、怖かったんだ」
「君も、そうだったのか……」
心底安心したように2人で言葉を交わし合い、顔を見合わせて吹き出した。
「もしかすると、手玉に取られてたのは、俺たちのほうだったんじゃないか?」
「そうかもしれないな」
安堵に心が解けてゆく。
峻介は椅子から立ち、漣も立たせて、やわらかく抱きしめた。
「こうやって、もう一度、君を抱くことができてよかった」
漣の髪に、頬に、キスを落としながら、峻介は囁く。
「情けない話だが、一昨日の夜、君を抱いた時はどうにも辛かった。これが最後になったらどうしようと思うとね。どうしても手放せなくて、疲れさせてしまったな。申し訳なかった」
ああ……と漣は合点のいく思いがする。それであの夜、この人は半ば強引に、夜中に自分を起こして抱いたのだ。何度も自分を貪る様も、いつになく切実だった。久しぶりだったからだと、漣は思っていたのだが……。
「城築さん……。俺は絶対に、あんたから離れることなんて、できやしねーよ」
恋人の背に回した腕に、ぎゅっと力を込めながら、漣は言った。
「もし、あんたがとんでもない悪人だったとしても、俺以外の誰かがあんたをどんなに欲しがったとしても、俺は絶対に、あんたから離れられない。だから…そんな心配は、しなくて……いいんだ」
くすぐったいようなキスの雨に早くも息を乱しながら、漣はどうにか言葉を伝えた。
峻介はその言葉に答えなかった。ただ、一瞬動きを止めた後、痛いほどに自分を抱きしめて激しく唇を重ねるその仕草から、自分の言葉がちゃんと伝わったことを、漣は知った。
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