君に恋のチカラを

アフターストーリー１３

　恋人の首筋に縋りつき、漣はいきなりの激しいキスを必死に受け止めた。
　唇をこじ開けられ、感じる場所すべてを舌でまさぐられる。どうにか追いかけて自らのそれをからませると、今度は柔らかく吸い上げられる。そうかと思えば不意に離され、下唇を甘噛みされる。痛痒いような刺激に、思わず、吐息と共に甘い喘ぎを漏らしていた。もう、なされるがままだった。

　どうして、この人のキスにはここまで感じてしまうんだろう。漣は思わずにはいられないのだ。峻介のキスはいつも、たかがキスとは言えないほどの快楽を漣にくれる。自分の身体はおかしいんじゃないかと思ってしまうほどに。
　もう初めからそうだった。初めてキスされ、触れられた時から、なす術もなく甘い嵐に翻弄され、あっけなく蕩かされてしまった。自分の気持も、ましてや峻介がゲイであることすら知らなかったというのにだ。
　いつになく長く激しい恋人のキスが、不意に、あの日の甘く切ない記憶を呼び起こす。

　とはいえ、実を言うと、そうなる直前までのことを漣はおぼろげにしか覚えていないのだ。
　何しろあの時彼は酔っていたし、ずいぶんと浮かれてもいた。初めて２人で過ごした時間はめったやたらと楽しく、このまま終わらせたくないとも思った。妻に逃げられた情けない過去をすべて話し、そんな自分を丸ごと受け入れてもらえたことで、あろうことか「甘えたい」などという厄介な気持も芽生え始めていた。

　まったく、誰かに甘えたいなんて思ったことなど、あの時が生まれて初めてだ。戸惑いがないでもなかったが、酔いが全てを押し流した。
　酔った自分を家まで連れ帰ってくれたこの年上の友人に、何か困らせることを言ったような気もするし、自らその胸に寄りかかったような気もする。酔ってふわふわとした心と身体を、目の前にある広い胸にゆだねているのはあまりに心地よくて、ずっとこうしていたいと思ったことも、何となくだけれど覚えている。
　とにかく、警戒心の欠片もなかった。そして、気がついた時には、強く抱きすくめられ、唇を奪われていたのだ。