アフターストーリー13

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 彼がゲイだとは夢にも思わなかった漣だったから、最初はもちろん、激しい驚きと戸惑いと共にその初めてのキスを受け止めた。しかし巧みなキスに、酔いに霞んだ頭の中は、あっというまに蕩けた。その後はもう、心も身体もただ蕩けるばかりだった。  何しろ峻介のその手で、指で、唇で、舌で触れられる場所の、どこもかしこもが恐ろしいほどに感じてしまうのだ。あんなことは初めてだった。  そして、その手が中心にわずかに触れただけで、全身が痺れるような快感に襲われ、漣はあっというまに達してしまった。たまらなく恥ずかしかったが、そうされたことが嫌ではなかった。何度でも、いかせてやる……そう囁いた彼の言葉に、酔いしれてすらいたほどだ。  自分でも恥ずかしくなるほどの甘い吐息と声を漏らしてしまいながら、彼は思わずにいられなかった。もしかすると自分は、この人にこうされることを心のどこかでずっと望んでいたのかもしれないと……。  その後、職場の倒産という憂き目に遭って身も心も疲れ切ってしまうことの多かった漣に、やはり峻介は何度か触れ、快楽を与えてくれた。そのたび、心であれこれ考える余裕もないまま、漣の身体は待ちわびていたかのようにその行為を受け入れ、何もかも忘れて、蕩けた。  ただ、自分にそんなことをする峻介の心の中にあるものがどうにもわからなくて、触れられれば触れられるほど、そして快感が深まれば深まるほど、そのことが耐え切れないほどつらくなってきて……。  ああ、好きになっちゃったのかもしれないな……そう悟らないわけにはいかなかった。  別に、触れられることがすべてだったわけではない。初めから、会えば嬉しかったし、話をすれば楽しかった。政治家としての真摯な姿勢を深く尊敬せずにはいられなかったし、その物腰たたずまい、すべてを好もしいと思っていた。  ただ、ゲイではなかった自分が、それを恋だと否応なく気づかされたのは、やはり触れられたからだと思う。  愛しい相手に触れられるからこそ、恐ろしいほどに感じてしまうのだ。城築峻介というひとりの男に、自分はどうしようもなく恋してしまっているのだと、漣は気づいた。  その恋が片想いだと思い込んでいた頃は、与えられる快感も、恋する気持も、どうにも切なくつらいものではあったが……。  その切なさもまた、今となっては大切な思い出なのかもしれない。
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