エピローグ

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エピローグ

 翌朝はちゃんと自分の部屋で目覚めたものの、やはり、少しばかり遅くなってしまった。  いや、遅いとは言ってもまだ朝の5時。ただ、今日は工事の関係で、早朝から現場に出ねばならなかった。昨夜意地悪く彼を啼かせた峻介もさすがにそのことは心得ていて、一度きりで解放してくれたから、睡眠はそこそこ足りているのだが、できればもう少し早く起きたいところだった。  目覚まし代わりにしている枕元の携帯を手に取ると、バイブが震えた。画面が昨夜の着信を告げている。草准からのメールだった。家に着いた時に、無事戻ったことの報告とお礼を兼ねてメールを送っておいたのだが、その返事らしい。  この2日間、楽しかったという短い文面の最後に、彼はこんな言葉を綴っていた。  ――君たちを見ていて、僕も少しは奇跡を信じてみようかという気持になれたよ……。  一瞬、心がしんとなった。  この言葉を峻介に伝えようと思った。いつもシニカルに接してはいるが、この人のことを誰よりも気にかけているのは、彼に違いないはずなのだから。  しかし残念ながら、考えるのは後にしなくてはならない。今は仕事だ。  大急ぎで準備をすれば、15分もあれば家を飛び出せそうだが、どんなに急いでも着くのは始業りぎりぎりになるだろう。いつもは必ず現場で着替えるのだが、今日はゴト着で行くしかなさそうだ。  幸い今日は、遠方から来る職人の駐車場がシフトの関係で空いているから、電車に乗らなくてもいい。まあ、車なら……と自分に言い訳をしながら着替えを用意する。
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