エピローグ

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 今日は、インディゴブルーの七分と同色の作業着。この仕事に就く者は、ベテランになればなるほど好みが落ち着いて、しまいには濃紺一択になるらしい。漣はまだその境地には至っていないが、いきがって赤や紫のニッカを穿いていた新人の頃にくらべると、確かに好みは渋くなり、青系を選ぶことが増えた。  ただし、今はオーダーメイドで仕立てるようになったから、値段は跳ね上がっている。今穿いている七分もいわゆるダボダボのそれではなく、若干細身に仕立てられ、下に流れるようにゆったりと幅広になる、比較的垢抜けたデザインのものだった。  痛い出費だが、ただ格好の良さだけでそうしているわけではない。ちゃんと仕立てたものを着ると、仕事の効率がだんぜん違うのだ。  峻介にそんな話をすると、「僕のスーツのようなものだな」と言われた。あの上等な三つ揃いとはレベルが違うだろうが、大事な仕事服であり、戦闘服であることには変わりないかもしれない。  着替えている最中、二の腕の内側にはっきりとつけられた痕を見つけ、思わず「ひゃー」と赤くなった。こんなところまで吸われていたなんて……。自動的に昨夜のあれこれが思い浮かび、動きが止まる。  あれは、ほんとに俺なんだよな……と、いつも冷静になってから漣は思わずにいられないのだ。  男に翻弄され、恥ずかしくなるような甘い声で啼かされて、泣き声で愛撫をねだる……そんな自分が自分の中に存在することなど、峻介に出会う前の漣なら、とうてい信じられなかっただろう。  あの恋人はいつも、信じられないような自分自身の姿を漣に見せる。そしてなお信じられないことに、それもなかなか悪くないと漣は思っているのだ。  甘さも、苦さも、恥ずかしさも、恋人がくれるものは何もかもが悪くない。  これって、好きになっちまってるからなんだろうな……。  小さくため息をつき、はっとした。気づけば時間が経ってしまっている。
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