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「いや、いけない。君は急いでるんだったな。すぐに食事の支度をしよう」
「あ、ご、ごめん。もしかすると、食ってる時間、ねえかも……」
一気に現実に引き戻され、漣は再び詫びた。峻介は笑って答える。
「大丈夫だ。そうかもしれないと思って、ホットドッグにしてある。今日は車なんだろう? 包んでおくから、信号待ちの間にでも食べるといい」
顔を洗って戻って来ると、テーブルにはコーヒーのポットと、ホットドッグの包みが用意してあった。洒落た英字のワックスペーパーに包まれたそれを見て、漣の頭に思わず「女子力」という言葉が浮かぶ。
自分の恋人はどうやら、知らない間に様々な能力を身に着けつつあるらしい。
慌ただしく玄関を出る直前「少しだけ」と請われ、抱きしめられた。そのぬくもりに包み込まれると、どうしたって漣は時間を忘れる。
思わず背伸びをし、キスを求めた。柔らかくまさぐるようなキスを少しだけくれた後、峻介は再び彼を抱きしめ、耳元で囁いた。
「困ったな、この格好の君を抱きたくてたまらなくなってきた」
「え……?」
そんなことを言われ、漣も困った。自分もまたあろうことか、この格好のまま抱かれたくなってきてしまったからだ。
「い……行ってくる!!」
慌ててそう告げ、身体を離す。玄関を開け、飛び出そうとして、漣は振り向いた。
どうしても今、伝えておきたくなって……。
「好きだよ。城築さん……」
小さく目を瞠って漣を見つめた後……。
とびきりの笑顔と共に、恋人は答えてくれた。
「僕も、大好きだ。漣――」
――END――
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