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峻介は生涯のパートナーのつもりで漣と暮らしているから、彼にとってこの人は義理の母、つまり、世間で言うところの姑にあたる存在なのだった。
彼女には漣が事故に遭って意識不明となった時に、ずいぶんと世話になった。そして今もこうして「嫁」ではない自分を自然に受け入れてくれ、多忙な自分たちに代わって時おり大志の世話を引き受けてくれるこの人に、峻介は頭が上がらない。
とはいえ、その天然ぶりにはどうしたって困惑させられることもあるが。
「そういえば、この間、叔父さんのところに行ってきたんですって? 昔のアルバム見せてもらったって、漣が言ってた。子供の頃の城築さん、めちゃ可愛くてマジ天使だったって」
「本当に、漣がそう言ったんですか?」
隣に座って楽しそうに話し出した姑に、峻介は思わず疑いの目を向けてたずねた。静子は少しだけ肩をすくめて、答える。
「……とは言わなかったけど、そんな顔してたわよ」
これも職業柄なのか、この人には少しばかり話を盛るくせがあるから、油断ならない。
とはいえ、母親が見てそうだったなら、「そんな顔してた」というのは本当なのだろう。そう思うとつい頬が緩んでしまうのだから、峻介もしょうがない。
「うちにもあるのよ、昔のアルバム。城築さん、見る?」
そう言って静子は峻介の答を待たず、店の奥にある扉からどたばたと2階へ駆け上がって行った。
そして峻介はといえば、頭の中で「昔のアルバム」という言葉のループが止まらない。
昔のアルバム……ということは、今も可愛い恋人の、さらに可愛い子供の頃や、赤ん坊の頃の姿まで見られるということか……。
突然の僥倖に、頭の中がお花畑になったような心地で待つ峻介のところに、静子は青い表紙のアルバムを抱えて戻ってきた。
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