番外編『君のすべてを僕は』1

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 そうか……と、峻介は空白のページを前に、肩を落とした。  中学から高校にかけて、漣は暴走族として荒れた日々を送っていた。確かに、親に写真など撮らせる心境ではなかっただろう。  静子も表情を曇らせて話を続ける。 「それでも仲間内で撮った写真ぐらいは持ってたみたいなんだけど、それも結婚する時に全部捨てちゃったらしくてね。新居の方にも全然持って行ってなかったって、前の奥さんも言ってた。やっぱり、いろいろ思うところがあったのかしらね」  その言葉には峻介も、少し胸が突かれる思いがした。出会って間もなくの頃、淡々と自分の過去を話した漣が続けてさらりと口にした言葉を思い出したからだ。  ――あの頃の自分を、消せるもんだったら消したいよ……。  それならば仕方がないと思う。本人が消したいと思っている過去なら、見ない方が良いのだろう。 「漣の気持もわかります。むしろここに残ってなくてよかったのかも知れま……」 「あ、でも、1枚だけならあるわよ」  物分かりの良い恋人らしく峻介が口にした言葉をさえぎって、静子が明るく言い、スマホを操作し始める。峻介は面食らって尋ねた。 「漣の昔の写真が、スマホに入っているんですか?」 「高1ぐらいの頃かしらね。当時の漣の彼女と私、仲良しでね。写メを送ってきてくれたことがあるのよ。親の私が言うのもなんだけれど、ほんと格好いい写真だったから、ずっと移し替えて保存してんの」  彼女……という言葉に思わず胸がざわつく。いや、高校生の女の子に嫉妬したってしょうがないことは分かっているが……。それにこの人は、暴走族の息子の恋人と仲良しだったというのか。つわ者にもほどがある。  あれこれと頭が巡って混乱したところに、ほら、と画面を出され、峻介は反射的に視線をそらせた。  見てはいけないような気がしたからである。  何しろ、本人が消したい過去なら見ない方がいいと自分に言い聞かせたばかりなのだ。それに高1の頃といえばもう、漣がバリバリに突っ張っていた頃に違いなくて、いくら愛しい恋人と言えども、そうした姿を見るのはやはり、ためらわれた。  それでも誘惑には勝てず、峻介はおそるおそる視線を落とす。  そして、画面をじっと見つめたまま、言った。 「静子さん、この写真、僕にも送っていただけませんか」
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