番外編『君のすべてを僕は』2

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番外編『君のすべてを僕は』2

 機械オンチの静子に画像の添付の仕方を教え、無事、メールを送ってもらったところで大志が帰ってきた。元気にバタバタと店に駆け込んできて、峻介を見た瞬間、「しまった」という顔をする。 「悪い、峻介……遅くなっちまって」  神妙な顔で謝るのが可笑しく、峻介は笑いを堪えながら、「大丈夫だ」と答える。 「そんなに待ってはいない。でも、あまり静子さんに心配かけちゃいけないな」  一応は「親」らしく説教めいたことを言ってはみるものの、つい頬が緩んでしまうのは、普段からこの可愛い子供がすることは大抵許せてしまうからだが、今は、それだけではない。  何しろこの大収穫は、大志が遅くなってくれたおかげなのだ。  家に帰って買い置きの材料で夕食を整え、久しぶりに大志と差し向かいで食事をした。  峻介が司会を務める子供向けのニュース番組を見るようになってから政治に興味を持ち始めた大志は、6歳の子供ながらなかなか鋭い視点で質問を重ね、食卓の会話は弾む。  しかし食事が終わると、いつものことで、大志はさっさと風呂に入って早々に寝てしまった。  わずかに寂しい気持も束の間、峻介はいそいそとスマートフォンの画面を開く。  そして写真の中にいる恋人の姿を見て、再び大げさではなく心臓を撃ち抜かれたような心地になった。  まさか思いもよらなかった。自分の人生において、特攻服を着た少年の姿に心ときめく日が来ようとは……。  今より明るい金髪を逆立て、鉢巻を巻いた漣は、あちこちに和風の文字が散らされた、白く長い上着を着ていた。  そして下に穿いているのは、今の彼の仕事着にも似た同色の幅広のニッカ。きゅっとすぼまった裾と編み上げの黒いブーツが、華奢な身体を引き立てている。こんなにいかつい格好をしているのに、大きく開けた胸元がひどくなまめかしく見えてしまうのも、困ったものだった。  そして何よりも、少し斜め加減にカメラを睨みつける、その瞳の鋭さがたまらない。  静子が携帯を買い替えるたびに移し替えてこの画像を持っていたというのもわかる。この写真は宝だ。自分も一生の宝にしよう。  当時の愛車だったのであろうバイクの前に立つ恋人の姿は、理屈を超えてもうたまらなく格好良いのだ。峻介はすっかり骨抜きにされてしまっていた。
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