番外編『君のすべてを僕は』2

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 しかしこの鋭い瞳をした少年の写真をしばらく眺めているうちに、弾む思いは別の感慨に変わり始める。  本当に自分の恋人にはこんな時期があったのだ……そのことが、こうして実際に姿を見ることによって、実感を伴いつつ胸に迫ってきたのだった。  あの高層ビルでの命知らずの仕事ぶりを初めて見た瞬間から、すっかり漣に心を奪われてしまっていた峻介は、その後、暴走族だったという彼の過去を知っても、一向にそれを気にする心持にはならなかった。  目の前にいる漣が、そうした過去を一切感じさせない穏やかなシングルファーザーだったからでもあるし、漣自身が昔の仲間とは一線を引いた付き合いをしていたためもある。その昔の仲間や後輩と一目でわかる強面の青年たちが、街で会うたび尊敬と憧れのこもった熱いまなざしを漣に送る様にすら、感激を覚える始末だった。  もちろん生半可な過去ではないことは、その身体に残る生々しい傷跡を見せられた時からわかっていた。しかし壮絶な過去を乗り越え、立派に仕事について、ひとりで息子を育てるこの青年の人生は、峻介にとってただもう尊敬に値するものとしか映らなかったのである。  実際にこうして当時の尋常ではない姿を目にしても、この思いが消えないどころか、ますます熱く愛しいものになってゆくことに、峻介は我ながら驚きを覚えていた。  しかし、世間はそう見ない……ということを、彼はかつて一度だけ思い知らされたことがある。  やむにやまれぬ思いにかられて、自分と漣との関係を世間に明かしてしまった、その少し後のことだ。  事故に遭って昏睡状態だった漣が目覚めて数日後、ようやく気持が落ち着き始めていた頃に起こった、それはまさに青天の霹靂だった。  漣の過去について、興味本位に書き立てる輩が出現したのである。  「イケメン元議員Sさまの同性の恋人」は、暴走族幹部の過去を持つ鳶職人……。いや、そこは事実だから仕方がないにしても、その後がひどかった。  地元で暴力行為を繰り返していたとか、クスリにも手を出していたとか、今もまだ犯罪組織と繋がりがあるとか、どう考えても事実無根の、荒唐無稽としか言いようない事柄が書き連ねられていたのだ。
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