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これが取材の裏付けなどなく想像だけで書かれたものであることは明白だった。内容のでたらめさもさることながら、峻介の所属政党であった国進党のはからいで、当時漣の周辺に対する取材は固く禁じられていて、裏の取りようもないはずだったからである。
この滅茶苦茶な記事は、そうした権力による措置に対する腹いせもあってのことだったのかもしれない。それにしたって、ちゃちな腹いせであったが。
記事が載った週刊誌は発行部数も少ない、小さな会社のものだった。仕事柄この手の雑誌は余さずチェックする静子が見つけることがなければ、峻介自身、このような記事の存在など知ることもなかっただろう。
冷静に考えれば、捨て置いても差し支えない記事ではあった。
しかし愛しい恋人のこととなると、とても冷静ではいられなくなるのが、城築峻介という男だ。
彼はすぐさま国進党を通じて記事の撤回と謝罪、そして該当する号の回収までもを容赦なく申し入れた。すでに国進党の党員ではなかった峻介だが、彼が少しばかり党の弱みを握っていることもあって党はすぐに動いてくれ、忌まわしい記事はほとんど人の目に触れることのないまま、世間から姿を消したのだった。
その時病院にいた漣がこのことを知る前に、事態に収拾がついたのは幸いであった。
しかし……安堵も束の間、峻介は考えたのだった。
どんなに頑張っても、人の口に戸は立てられない。暴走族という漣の過去が消せないものである限り、また同じようなことは起こりうるだろうと。
実際、マスコミでは、品行方正な元二世議員の明かした同性の恋人が、荒れた過去を持つとび職の青年であることが、スキャンダラスな驚きと共に語られ始めているらしい。
この業界を新たな活動場所として選んでいた峻介は、そのことを否応なく感じ取らずにはいられなかった。さしたる説明もなく「なかったことに」されたいくつかの仕事も、これが原因であったに違いなかった。
今は噂レベルのその話に、様々な尾ひれがついて、もっと広い世間に広がるのは、もはや時間の問題だろう。そうなると、誰よりも傷つくのは漣だ。
今のうちに、どうにかしなくてはならない。
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