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暴走族上がりの鳶職人、その言葉から人は勝手なイメージを抱く。初めからただ漣を好きでしょうがなかった自分には思いも寄らない、そんな現実を、あの時峻介は思い知らされたのだった。
しかし冷静に考えてみれば、良く知らぬ人間のことはどうしたって、真実とはかけ離れた偏見の目で見てしまいがちなのが人というものだ。峻介にしても、天宮漣という青年を知ることがなければ、そうした偏見から逃れ得なかったかもしれない。
ならば……峻介は思った。隠し立てをするよりも、むしろ知ってもらうべきなのではないか、その過去をも含めた天宮漣という人間の真実の姿を。
真実を語ることは時に難しいが、自分ならそれができる。漣の恋人であり、「峻さま」である今の自分になら。
それが心無いイメージから愛しい恋人を救う、唯一の手立てになるはずだ。
その頃峻介はちょうど、カミングアウトのきっかけとなったニュース番組から、再びの出演を打診されていた。突然に同性の恋人の存在を明かしたきり、時間の関係もあってそのままインタビューを終えてしまった彼に、もっと詳しく話を聞かせてほしいという声が殺到しているというのだ。
もちろん、その要望には応えるつもりでいた。しかしプライベートなこと……特に漣のことについてはどこまでを話せば良いのか、考えあぐねているところだった。
話そう、自分の愛しい恋人の真実の姿を……峻介の心は決まった。
とはいえ……。
あの頃の自分を消せるものだったら消したいと語った漣に、この自分の思いを理解してもらえるだろうか。
それが、何よりも困難なことに思えたが……。
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