番外編『君のすべてを僕は』3

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番外編『君のすべてを僕は』3

 漣の回復を待つ余裕は時間的になく、まだ病院にいた恋人に峻介は話を切り出した。それが漣のためであるということを、言葉を尽くしてわかってもらうつもりではあったが、わずかでも彼が拒否の意を示したのなら、あきらめようとも思っていた。  しかし驚いたことに、暴走族であった過去も含めたすべてをテレビで話したいという峻介の決意を聞いた漣は……。  その理由を問うこともなく、事も無げにうなずいたのだ。 「かまわねーよ、何でも話してくれて……」 「い、いや、しかし……漣、本当にいいのか?」  あまりにもあっさりとした同意に、峻介の方がうろたえる始末だった。 「城築さんの言うことは、いつだって間違いない。あんたが話した方がいいって思ったんなら、きっと、その方がいいんだろう。俺は、何も心配してねえよ」  力強い笑みと共にそう返され……。  峻介は実感しないわけにはいかなかった。この恋人が理屈抜きに、全面的な信頼を自分に寄せてくれているということを。  そして、その信頼を、感激の思いと共に重く重く受け止めたのだった。  そうして、漣の深い信頼を胸にインタビューの席についた峻介は、生放送のカメラの前で、ありったけのレスペクトを込めて愛しい恋人のことを語った。  こうなるともう、誰よりも強い説得力を持って言葉を繰る「峻さま」の独壇場だ。  様々な理由から暴走族として一時期を過ごさざるをえなかった少年が、その日々を乗り越えて鳶という厳しい仕事に就き、努力の末、若くして一流の腕を身に着けた。 そしてさらには離婚という出来事をも乗り越え、今はシングルファーザーとして立派に息子を育てながら、骨身を惜しまず世のため人のため働き続けている。  そんな物語を、熱く、熱く語った。  それはもちろん、峻介が見た愛しい恋人の、真実の姿そのものに違いなかったのだったが……。  その熱弁たるや、テレビを見ていた当の漣が、真っ赤になって、 「誰のことだよ……」  と呟いたほどだった。
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