番外編『君のすべてを僕は』3

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 ともかく、峻介がインタビューに応えて語った物語は、視聴率ナンバーワンと言われるこのニュース番組を見ていた多くの人々の感動を呼んだ。  このことで心無い噂は止んだ。もちろん、否定的な事柄を記事にしたり、テレビで話したりといった輩がいなくなったわけではなかったが、そうした話を誰も信じることはなかった。  逆に誤算だったのは、このことによって、漣自身の「ファン」が予想外に急増してしまったことだ。  もちろん、恋人の名前も素性も峻介は決して明かさなかったが、それでも地元にはそうと知る人が多くいる。退院して街に戻ったとたん、漣は息子の大志と共に、そうした人たちの熱い視線を浴びることにもなってしまったのである。 「なんか今日、着物着たすごい上品そうなおばあさんにいきなり手ぇ握られちゃったんだけど。『あなた、頑張ったわね!!』って……」  しばらくの間、そんな出来事が毎日のように起こった。そうしたことを困惑気味に語る恋人の言葉を、むしろ誇らしく思わずにはいられない峻介だった。  そして、今……。  あの出来事を思い出すたび、真っ先に峻介の胸に迫るのは、あの時漣が寄せてくれた、無限と言っても良いほどの信頼の念なのだった。  ――城築さんの言うことは、いつだって間違いない……。  力強い笑みと共に漣がくれたその言葉を、峻介は忘れることができない。決して明るいものではない恋人の過去を世間に晒し、そのことによって感動と共感を勝ち得るという難しい仕事を、自分がやり遂げることができたのは、他でもない、漣のおかげだったと彼は思っている。  あの笑顔と言葉、微塵の懸念も見せずすべてを自分にゆだねてくれた、深い信頼の思いが、彼に大きな力をくれたのだ。
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