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その後も漣はたびたび、そうした無条件の信頼を峻介に寄せてくれた。日常の些細なこと、大志の教育に関わること、時に本人には受け入れ難いであろうことまで、あっさりと彼にゆだねてくれるのだった。
この恋人が本来、自分の意志で考え、行動することを何よりも大切にする青年であることを、峻介は良く知っている。だからこそ、この信頼は、軽く扱うわけにはいかなかった。
決して、裏切ってはならない。この深く重い信頼に、常に応えられるような男でいなくてはならない。
そんな思いが、峻介をここまで成長させてくれたとも言える。
今、写真の中にいる少年の頃の恋人は、絶対に誰をも信じないような目をしている。実際、当時の彼には心から信じられる相手など、ひとりもいなかったのだろう。
その胸にある孤独を思い、心が痛む。
できることなら、この孤独な瞳をした少年を今すぐ抱きしめてやりたい……。そんなことを思いながら、写真を見つめていると、廊下の向こうで鍵がカチャリと回る音がした。
漣が帰って来たのだ。
峻介は慌ててスマホの画面を消し、飛び立つ思いで玄関へと愛しい恋人を出迎えにゆく。
「ただいま、城築さん」
その少し疲れた顔に浮かぶ笑みを見ると、どうにもたまらない気持になり、峻介は漣に靴を脱ぐひまも与えず、いきなりその身体を抱きしめた。
「き……城築…さん?」
漣が胸の中で戸惑いの声を上げる。
いつも隙あらば恋人に触れたり抱きしめたりしている峻介だが、さすがにこのタイミングは唐突だったらしい。わずかに身じろいで逃れようとする様子を見せた。
そんな反応にすら、愛しさがつのってしまうのだからしょうがない。
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