番外編『Long Long Distance』1

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 もちろん漣の職場はブラック企業などではないから、その分、現場仕事の負担が少なくなるよう親方も気を配ってくれる。しかし根っから外に出て汗を流して働くことが好きな彼には、実はそのことが一番きつい。  どうしても現場での時間を削ることができず、最初の頃は毎日のように持ち帰りでどうにか事務仕事をこなしていた彼に、「それならばパソコンを使った方が効率がいい」と、扱い方を教えてくれたのは、一緒に暮らす恋人の城築峻介だった。  6歳年上の恋人は何人もの秘書を抱える国会議員だが、自分でできることは自分でやるという姿勢が身についていて、ちょっとした事務作業なら自らパソコンを駆使して難なくやってのける男だった。  しかも工事現場の安全対策にも議員として関わっているから、安全に関する記録や報告についてはプロと言える。自らも忙しい中、何も知らなかった漣に様々なことを教えてくれ、本当に助けられた。  ただ、こんなことを言って真剣な顔で詫びられたのには困ってしまったが。 「すまない、漣。君の仕事を忙しくしているのは、僕たち政治家だ。安全のために良かれと思っての施策を進めれば進めるほど、現場での作業は煩雑になる。わかってはいたが、どうすることもできずにいた。しかし君の姿を見て、どうにかしなければならないと本気で思ったよ」  だけど、この恋人のそんな風に生真面目なところが、漣は本当に大好きなのだ。  ただ生真面目なだけではなく、そうした思いを現実に繋げるだけの力を彼は持っている。実際、工事現場の安全と事務作業の効率化の両立を目指して彼が動き始めていることを、それから間もなく、漣は恋人の父親である厚労大臣の城築将孝から聞いた。 「大切なことを息子に気づかせてくれてありがとう。本当に感謝している」  などと、峻介にそっくりな生真面目な表情で言われ、面映ゆいようなくすぐったいような気持になった。  恋人の尽力に感謝しなければいけないのは自分の方だと、思わずにはいられなかったから。
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