番外編『Long Long Distance』1

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 ああーっ!! 大好きだ、城築さん……。  思わず心で叫んだ。不意に会いたい気持が込み上げ、仕事の手が止まってしまう。  大好きなあの笑顔を見たい。「漣」と自分を呼ぶ甘い声を直に聞きたい。あたたかい手に、身体に触れたい。そして強く抱きしめてほしい……。  恋人のぬくもりを間近に感じることができずにいたこの半月ばかりの間、漣はたびたびそんな衝動に悩まされてきた。  だけど、それも今日までだ。  愛しい恋人は今、遠い異国の空の下にいる。……いや、正確にはもう空の上だ。  レポーターとして出演しているニュース番組の仕事でヨーロッパに旅立っていた峻介は、昨夜、無事に2週間の日程を終え、ロンドンの空港から帰国の途についているはずだった。飛行機のトラブルで帰国予定の便に乗れなくなったと聞いた時は肝を冷やしたが、その後すぐに代わりの便が見つかったとのメールが届き、漣をほっとさせた。  元々帰りは夜と聞いている。出発が遅れた分、帰ってくる時間も、さらに遅くはなるだろうけれど、少なくとも今夜中には、あの大好きな笑顔を見ることができるのだ。  そう思うと、居ても立ってもいられないような気持になってくる。  何しろ、2週間ぶりの再会なのだ。峻介と暮らし始めて以来、そんなに長く会わずにいたのは初めてのことだった。  恋人である漣と漣の息子の大志との時間を何よりも大切にしている峻介が、もちろん何の葛藤もなくこの仕事を引き受けたわけではない。  意義ある仕事に違いないが、2週間と君と離れているなんて考えられない、せっかくの夏休みに大志と一緒にいてやることもできなくなる……。そう言って最初、ためらいもなく断りを入れようとした。恋人のあまりの潔さに仰天し、自分たちは大丈夫だから行ってくるようにと説得したのは漣の方だった。
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