2732人が本棚に入れています
本棚に追加
/425ページ
もちろん漣とて、2週間も離れているなんて、考えただけでも寂しくてたまらなかったが、仕事は仕事だ。寂しいからといって引き止めるなど、自身も仕事に打ち込む男としての矜持が許さない。
それに、彼は思ったのだ。城築さんはこの仕事を引き受けるべきだと。
峻介自身のキャリアのためはもちろんだが、何よりも、世の中のために……。
ヨーロッパの各国を訪ねて、LGBT(と呼ぶらしい)に関する様々なことをレポートし、ニュース番組の特集で紹介するというのが、峻介の今回の仕事だった。
漣は生まれついてのゲイではない。男性である城築峻介を生涯のパートナーと決めて生きているものの、今も自分が同性愛者という自覚はさほどない。
いわゆる「当事者意識」はかなり希薄だ。「LGBT」という言葉だって、この件があって初めて知ったぐらいだった。
しかしそんな彼でも、「たりーな…」と感じることは、同性の恋人を持つようになってから、たびたびあった。
族時代の同期や後輩は以前よりどこかよそよそしくなったし(元々過去の自分と距離を置きたかった漣にはむしろ好都合だったが)、職場でもたまに、何も知らない新人からバカバカしい揶揄の言葉をくらう。まあ、長く職場にいる連中は漣の怖さを知っているから、決して彼をからかうようなことは口にしないので、さほどの被害でもないが。
ただ、厄介なのは、小学生の息子である大志に関わることだった。
2年になったばかりの頃も、「『峻さま』とお父さんは、同じ部屋で寝ているのか?」と、授業参観に来たクラスメイトの母親に訊かれたらしい。
「別々の部屋で寝てるって、ふつーに答えたけど、何でそんなこと知りてーんだろ」
心底不思議そうに大志は言った。峻介と抱き合った後、漣は必ず自分の部屋に帰って眠りにつくようにしていたから、2人が「同じ部屋で寝ている」時もあることを、息子は知らない。まずは安堵……だったが、本当に、どうしてそんなことが知りたいのか、わけがわからない。
しかもそれを子供に訊くか?
最初のコメントを投稿しよう!