番外編『Long Long Distance』1

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 しかし張り切って仕事を始めたものの、2時間も経たないうちに様子がおかしくなってきた。いつもなら降り注ぐ雨のように巨大な鉄骨を次から次へと運んでくるクレーンの動きが、なぜだか次第に鈍くなり始めたのだ。  いつものごとく、今日も一刻を争うスケジュールのはずだ。不審に思い、地上に連絡を取ると、下は下でパニックになっていた。午前中に届くはずだった資材が、どうやら今日は届きそうにもないというのだ。  昼休みに入る前には、クレーンはぴたりと止まってしまった。鉄骨を取り付け、組み上げるのが漣たちの仕事なのだから、これでは話にならない。血気にはやった職人たちが口々に文句を言い始めるのをなだめて地上に下りようとした時、別の現場にいたはずの漣の会社の親方が、エレベーターから出てきた。 「発注ミスだってよ。今日はもう、資材は来ねえらしい」  元受けから連絡を受けて駆け付けて来たらしい親方は、苦り切った表情で漣たちに話した。  「ありえねーだろ」「勘弁してくれよ」と職人たちが口々にぼやく。漣も胸の中で深くため息をついた。  確かに、ありえない。長い間この仕事をやってきたが、こんなことは初めてだ。今日はもう仕事を終えるしかないのだろうが、限界までタイトに組まれた工程が少しでも滞れば、今後にしわ寄せがくるのは当然のことで……。  これはもう、休日出勤で取り戻すしかねーんだろうなと覚悟を決める。そうなれば息子の預け先を考えねばならないことも、シングルファーザーの辛いところだ。  今後のスケジュールについて簡単に親方と打ち合わせた後、とりあえずは母親に状況を知らせておこうとスマホを手に取ると、メールが着信を告げていた。  峻介からだった。今ごろ飛行機に乗ってるはずなのに、どうしたんだろう。どきどきしながら画面を開く。
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