番外編『Long Long Distance』1

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――思いのほか早く着いて、実はもう成田にいる。タクシーで帰るよ。1時間ほどで家に着くと思う……。  その文面を読んで、漣は目を瞠る。  え? 城築さん、帰りは夜になるんだったんじゃ……。わけが分からず、彼は少しの間、呆然と画面を眺めた。  我に返って、今の時間とメールが送信された時間を確認し、あわただしく頭をめぐらせる。あと30分もすれば、恋人は我が家に帰っていることになる。  ってことは……、  今、帰ったら、会えんじゃねーか!!  ガタン!! と音を立てて漣は立ち上がった。 「か、頭……!?」 「職長?」 「天宮……?」 「すんません、帰ります……」  親方や同僚たちが驚いたように自分を呼ぶのを気にかける余裕もなく、ロッカーへ走る。着替えているひまなどない。汚れたゴト着のまま、通勤用のリュックだけ引っ掴んで、漣は風のように詰め所を飛び出し、地上へ下りるエレベーターに飛び乗った。  出口のところで警備員に呼び止められ、あわてて被っていたままのヘルメットを返す。ちゃんと戻すべき場所があったのに、そんなことすら忘れていたのだ。  隣接する駐車場に置いてあった愛車のワゴンに駆け込み、エンジンをかける。落ち着けと自分に言い聞かせるが、どうにも気が急いて仕方がない。  家まではいつもなら下道を通る距離だが、ためらわず高速に乗った。しかし渋滞というほどではないが、前を走る車が邪魔だと感じる程度に道は混んでいて、漣は思わず舌打ちしてしまう。  決してほめられたことではないが、こんな時ばかりは族時代の癖が出る。彼は鮮やかなハンドルさばきで次々に車線を変えて前の車を追い抜き、アクセルを踏み込んだ。
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