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それに峻介としては、2週間現地で苦楽を共にしたクルーとは、すっかり仲間のつもりでいたのだ。最後の最後で「お偉い先生」扱いされて、少しばかり寂しい気持も残る。
とはいえ、せっかく用意してくれたものを無下に断るわけにもいかない。それにやはり、一刻も早く漣に会いたい気持にはどうしたって勝てず、峻介は見送る人々に深く頭を下げつつ、ひとり帰途に着くことになったのだった。
それが、本来飛行機に乗るはずであった時間の1時間後。
当然ながら、その分到着の時間も遅くなるものと、峻介は思い込んでいた。
それに、この出発前のバタバタの上に異国での2週間の仕事の疲れは相当なものだったようで、機上の人となったとたん、彼はすっかり気が抜けて眠り込んでしまった。だから機内アナウンスもろくに聞こえてはいなかった。
その後も疲れは取れず、機内食もろくに食べられないまま、夢やら現やらわからない時間を過ごし……。
気がつけば彼は、わけがわからないまま、祖国の地を踏むことになっていたのだった。
しかも、わけがわからないほど早い時間に。
しかし……ようやくはっきりし始めた頭で峻介は記憶をたどる。
帰りの飛行機は、往きとは随分と雰囲気が違うと思ったら、どうやらブリティッシュ・エアウェイズの直行便というものであったらしいのだ。乗り継ぎもなく、現地からほぼ真っ直ぐに飛んでくるわけだから、往路とは段違いに早く着くのも当然なわけで……。
ようやくそんな単純なことに思いが至った。どうやら彼は相当に疲れていたらしかった。
それにしても……このチケットはキャンセル待ちで手に入ったというが、この時期、それがどれほどの奇跡であったか、今となってはよくわかる。少しでも早い飛行機に自分を乗せようと、現地のコーディネーターがどれほど懸命に奔走してくれたかも、今さらのように身にしみて理解できる。
手厚く礼をせねばと思った。ともあれ、おかげで自分はこんなにも早く、愛しい恋人のいる日本に帰って来られたのだから。
こうなると、どうしたって嬉しくなってくる。
とにかく帰ろうと思った。漣は今頃仕事中だから、どちらにしてもすぐには会えないが、帰って来る恋人を迎えることができる。
そろそろ昼休みになるはずの恋人に短いメールを送り、峻介はタクシー乗り場に向かった。
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