番外編『Long Long Distance』2

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 しかし、いざ現地に着いて取材を初めてみれば、思わないわけにはいかなかった。  確かに、自分はここに来るべきであったと。  アムステルダムから始まり、ベルリン、ウィーン、パリ、ストックホルムといった各国の都市を訪れて、取材を重ねた。同性婚が認められている国の、男性同士の結婚式に参列した時は、幸せそうな2人の姿に自分たちのことを重ね、胸が熱くなったし、LGBTのことを積極的に取り上げている各国の教育現場を取材して大志のことを思い、日本の学校もこうあってほしいと願わずにいられなかった。自分と同じくゲイを公言している政治家や、ゲイフレンドリーな政策を進める政治家にインタビューさせてもらえたのも有難いことだった。  最終地のロンドンで、プライドと呼ばれる大規模なデモ行進に参加したのも、貴重な経験だった。  レインボーカラーの帽子やサングラスを身に着けさせられたのには参ったが、「少数派」とは思えない人々の圧倒的なパワーに溶け込んでしまうと、むしろそれが正しい姿のように思えてくる。調子に乗って漣に写真を送り、「城築さん、カッコいい!!」と手放しの賞賛が返ってきた時は、さすがに少し恥ずかしくなってしまったが……。  しかしとにかくどこへ行っても、通り一遍ではない共感を持って取材に打ち込むことができるのだった。そして話をきいた誰もが心を開いて、真摯に答えを返してくれる。これもまた、峻介自身が当事者だからこそだろう。  同性愛者であることをカミングアウトし、その特性をもって仕事ができる政治家や政治評論家が日本にそうそういるわけではない。まして今の峻介には、「視聴率を取れるタレント」という一面もある。仕事や家事を終えた後にニュース番組を見る、つまりはごく普通の人々にとって、決して遠い存在ではない。  そんな人々にこうした映像を送り届け、ほんのわずかでも彼らの意識を変えることができるのは、今の日本において城築峻介ただひとりなのではないか……。  取材を続けるうちに、決して自惚れではなく、そうした実感と使命感を持たずにはいられなくなった峻介なのだった。 ――受けるべきだ、城築さん、この仕事はあんたにしかできない仕事だよ……。  きっぱりとそう言って背中を押してくれた、漣の瞳の強い光を思い出す。
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