番外編『Long Long Distance』2

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 漣はぱっと身体を離し、真っ赤になって詫びた。その表情すら愛しくてたまらず、峻介は手を伸ばして再びその身体を胸の中に封じ込める。  漣は観念したように息をつき、話し始めた。 「職場でちょっとトラブルがあって、今日は仕事が終わりになったんだ、それで……」 「トラブル?」  思わず眉をひそめて尋ね返した峻介に、漣はあわてたように言葉を繋ぐ。 「い、いや、全然大したことじゃねーんだ。発注ミスで資材がなくなっちまって……。いや、大したことないってわけじゃないけど、取り返しはつくから、城築さんは心配すんな。とにかく、今日は帰るしかねーなって思ってたら、城築さんからメールがあって……」  その後は本人にすら記憶が定かでないらしく、要領を得ない言葉をひとつ、ふたつ口にした挙句、漣は黙ってしまった。  ますます赤くなったその顔を見て、峻介は浅からぬ感動に胸を浸される。  つまり……この愛しい恋人は、自分が早く家に着くことを知って、大急ぎで帰って来てくれたというわけなのか。取り乱すことなどめったにないこの穏やかな青年が、着替えることすら忘れてしまうほど慌てて……。  もう、駄目だ。あまりに愛しくて、自分も冷静ではいられない。  それは彼がどうにか保ってきた、なけなしの理性が崩れ去る瞬間であった。 「漣!!」  叫ぶように恋人の名を呼び、再び強く抱きしめる。はずみでバランスを失った漣の背中が、玄関の壁に当たった。かまわずその華奢な身体を壁に押し付け、唇を奪う。 「き……城築さん?! ん……っ――」  これ以上抵抗の声を上げさせまいと舌を差し入れ、深く貪る。夢にまで見た甘く柔らかい唇に思わず我を忘れ、溺れた。漣も同じであることは、あっという間に崩れ落ちそうになりながらも、自分の肩に縋りついて必死にキスを受け止めようとする仕草からわかる。  ひたむきなその仕草、熱く甘い吐息、時おり漏れ出るくぐもった声ですら、可愛くてならなかった。  この愛しい恋人が、キスだけで身も世もなく蕩けてしまうことを峻介は知っている。蕩けた恋人が、どれほど煽情的に自分を溺れさせるかということも。  もはや思いとどまることなど、できるはずもない。  玄関先で、靴すら脱がないまま、峻介は久方ぶりに自分の手の中にいる愛しい恋人の身体を、貪ることを止められなくなった。
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