番外編『Long Long Distance』3

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番外編『Long Long Distance』3

「ん……ふっ――。き、き……づっ!!」  どうにか唇を離して、漣は恋人の名前を呼ぼうとしたが、最後まで呼ばせてはもらえなかった。再び捕らえられ、深く貪られて、頭の芯が霞む。  ただでさえ恋人のキスは、単なるキスとは思えないほどの甘さで、漣を蕩かせてしまうのだ。たちまちのうちに全身の力が抜け、必死に目の前のある広い肩に縋りついた。そうしていつしか自分からも、激しく唇を求めずにはいられなくなっていた。  会いたい一心で階段を駆け上がり、玄関に飛び込んだとたん、思いがけず間近に峻介はいた。驚きと共に久しぶりのその姿を目にした瞬間、漣は完全にやられてしまっていた。  2週間にわたる海外でのロケはやはりハードだったのだろう。恋人は少し痩せたようだった。  額にはパラパラと前髪が落ちかかり、驚いて自分を見つめるその表情には、微かな疲労の色がにじむ。そして、その身体をゆったりと包むダークグレーのスーツは、一晩を飛行機で過ごしたためか、いつもの寸分の隙も無い着こなしとは違い、わずかに着崩れていて、その様がなぜだか無性に格好良いのだ。  匂い立つような男の色気……というのだろうか。それにやられて動けなくなったところを、強く抱きしめられた。いつも峻介が大切に扱っている仕事着のスーツが汚れてしまうことを恐れて身を引こうとするも、にべもなく、さらに強く抱きすくめられて……。  そうして尋ねられるままに、帰って来た経緯をどうにかしどろもどろに答えたものの、今度はいきなり激しく唇を奪われ、漣はもう、身も心も嵐だった。  息もろくにできず、苦しいのだか気持良いのだかわからなくなり、だけどその苦しさすら気持良くて、やばいなと思う。このまま死んだっていい。いつまでもこの愛しい嵐の中で溺れていたいとすら思えてくる。  とはいえ、恋人が自分の耳元や首筋に唇を移して狂ったように貪りながら、汚れた作業着のボタンに手をかけて外し始めたときには、さすがに我に返ったが……。 「き……城築さん!! ダメだって!! 俺……っ、めちゃくちゃ汗臭いし」  開かれた上衣の下のタンクトップ一枚の身体から、こもった熱気と汗の匂いが立ち上るのが恥ずかしくてたまらず、漣は息を切らしながら慌てて制止の声を上げた。
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